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大阪高等裁判所 平成11年(ネ)249号 判決

控訴人

甲山A夫

右訴訟代理人弁護士

久保慶治

被控訴人

乙川B雄

丙谷C郎

右両名訴訟代理人弁護士

小林義和

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴人の被控訴人らに対する当審予備的新請求をいずれも棄却する。

三  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決をいずれも取り消す。

2(一)  主位的請求

(1) 被控訴人乙川B雄は、控訴人に対し、金二五〇〇万円及びこれに対する平成九年一二月三〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(2) 被控訴人丙谷C郎は、控訴人に対し、金五五〇〇万円及びこれに対する平成九年一二月三〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(二)  予備的請求―当審新請求

(1) 被控訴人乙川B雄は、控訴人に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成九年一二月三〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(2) 被控訴人丙谷C郎は、控訴人に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成九年一二月三〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人

主文同旨。

第二当事者の主張

一  控訴人(請求原因)

1  控訴人は、別紙約束手形目録≪省略≫記載のとおりの約束手形二通(以下、本件手形一及び本件手形二という)を所持している。

2  被控訴人乙川は本件手形一に、被控訴人丙谷は本件手形二に、拒絶証書作成義務を免除してそれぞれ裏書した。

3  控訴人は、満期に本件各手形を支払場所に支払のため呈示した。

4  仮に、本件各手形の金額が当初五〇〇万円であったとしても、被控訴人両名は、変造前の原文言である右金額五〇〇万円の各手形(その他の記載は別紙約束手形目録記載のとおり)に拒絶証書作成義務を免除して裏書した(当審予備的新請求)。

5  よって、控訴人は、被控訴人両名に対し次の各手形金及びこれに対する満期から支払い済みまで手形法所定年六分の割合による法定利息の支払を求める。

(一) 被控訴人乙川に対し

(1) 主位的に、本件手形一の手形金二五〇〇万円

(2) 予備的に、本件手形一の変造前の原文言である金額五〇〇万円の手形金

(二) 被控訴人丙谷に対し

(1) 主位的に、本件手形二の手形金五五〇〇万円

(2) 予備的に、本件手形二の変造前の原文言である金額五〇〇万円の手形金

二  被控訴人両名(請求原因に対する認否)

1  請求原因1の事実を認める。

2  同2の事実を否認する。被控訴人両名は、知人である丁沢D介に頼まれて同人振出の金額五〇〇万円だと称する手形に裏書したことはある。しかし、金額二五〇〇万円あるいは五五〇〇万円の手形に裏書したことはない。

3  同3の事実を認める。

4  同4の事実を否認する。なお、被控訴人両名が裏書した手形は、金額欄に、貼ると見えなくなりその上から字が書ける特殊なテープを貼り、その上に金五〇〇万円と記載してあったものである。被控訴人両名はそのような手形に裏書をしただけであるから、手形裏書人としての義務を負担することはない。

理由

第一当事者間に争いがない事実

請求原因一(本件各手形の所持)及び同三(呈示)の事実は当事者間に争いがない。

第二事実の認定

一  事実の認定

証拠(≪証拠省略≫、証人戊野E作[原審及び当審]、同己原F平、同庚崎G吉、同辛田H夫、同壬岡I雄、被控訴人両名[原審及び当審])及び弁論の全趣旨によると、次のとおり認定、判断することができる。

1  本件各手形の振出人である丁沢D介は、一〇年以上舞鶴市で「奈和」の称号で進物店を開いていた。舞鶴青年会議所の会員を経て、平成九年当時、舞鶴ロータリークラブに所属しており、それなりに信用もあった。

2  被控訴人乙川は、舞鶴合同青果株式会社の専務取締役であるが、青年会議所、ロータリークラブを通じて、丁沢と知合った。

平成九年九月二七日ころ、被控訴人乙川は、丁沢から五〇〇万円の手形に裏書保証を求められた。資金繰りが苦しくて知人から短期に五〇〇万円を借りるが、念のため裏書のある手形の差入れを求められたというのである。

被控訴人乙川は、五〇〇万円程度であればロータリー仲間として断るわけにはいかないと考えて、これを了承した。そして、本件手形一の第一裏書欄に裏書した。手形の金額欄には手書の漢数字で五百萬万円とあったが、その記載形式などに特に不審を感じることはなかった。

ちなみに、被控訴人乙川と丁沢との間には、商取引があったわけではなく、二五〇〇万円もの手形に裏書をしてやらねばならないような関係にはなかった。

3  被控訴人丙谷は、小西商事株式会社の代表取締役専務であるが、被控訴人乙川と同様、青年会議所、ロータリークラブを通じて、丁沢と知合った。

平成九年一〇月一五日、被控訴人丙谷は、丁沢から五〇〇万円の手形に裏書保証を求められた。資金繰りが苦しくて知人から短期に五〇〇万円を借りるが、念のため裏書のある手形を求められたというのである。その際、丁沢は主要取引先のセルマから毎月一一〇〇万円前後が入金されており、その金が半月ほどで入る旨を預金通帳を見せて説明した。

被控訴人丙谷は、丁沢を信用しており、五〇〇万円程度で商売が続けられるものなら助けてやろうという気になり、これを了承した。そして、本件手形二の第一裏書欄に裏書した。手形の金額欄には手書の漢数字で一金五百萬円とあったが、その記載形式などに特に不審を感じることはなかった。

ちなみに、被控訴人丙谷と丁沢との間には、特に商取引があったわけでもなく、五五〇〇万円もの手形に裏書をしてやらねばならないような関係はなかった。

4  平成九年一〇月から一二月ころ、被控訴人両名の外にも、青年会議所やロータリークラブを通じて知合った丁沢の知人ら多数の者が、丁沢から額面五〇〇万円の手形について裏書保証を求められていた。そのうち癸井J郎、庚崎G吉及び辛田H夫はこれを断った。しかし、丑木K介及び壬岡I雄は、被控訴人両名と同様、額面五〇〇万円の手形だと思って丁沢が持参した手形に裏書した。

このようにして、土地柄純朴な人々が友人を助けたいとの義侠心にかられて次々と五〇〇万円くらいならとして裏書をさせられていった。ところが、その後、金融業者の戊野E作こと戊L作及び戊野M平の兄弟から、それらの手形は金額五五〇〇万円及び金額二五〇〇万円の手形であるとして、手形金の請求がなされた。丑木と壬岡は、結局、和解金として合計八〇〇万円を戊野兄弟に支払っている。

5  本件各手形は、右戊野E作こと戊L作から控訴人に裏書され、控訴人が満期に呈示した上で、被控訴人両名に遡求しているものである。戊L作は、本件各手形を丁沢から合計七〇〇〇万円で割引したという。そして、その七〇〇〇万円は控訴人から振込んでもらったと証言する(原審証言)。たしかに控訴人から戊L作に対する平成一二月一五日の金五〇〇〇万円、同月一六日の金二〇〇〇万円の振込金受取書(甲事件の≪証拠省略≫)がある。しかし、右各振込は信用組合京都商銀の舞鶴支店が取扱店であり、同支店の戊野E作の当座預金に振込まれている。控訴人の住所は大阪市であるのに、なぜ、わざわざ舞鶴支店で二日に分けて振込手続がなされたのか不審である(ちなみに、本件各手形の取立委任は大阪市の富士銀行上六支店になされている)。また、この金員が実際に丁沢に交付されたかどうかについては、裏付けとなる的確な証拠がない。

6  本件手形一、二は、福邦銀行の手形用紙(No.104972・No.104974)が使用され、それぞれに、別紙手形目録≪省略≫記載のような記載がある。本件手形一の金額欄には「一金貳阡五百萬円也」と手書され、欄外に¥25,000,000-と複記されている。本件手形二の金額欄には「一金五阡五百萬円也」と手書され、欄外に一旦¥50,000,000と複記され、これが¥55,000,000と訂正されている。

それぞれの金額欄の文字や記載の位置、配字等に不自然な点は見当たらず、一旦は五百萬円と手書されていた金額に、その後文字を挿入したような形跡はない。

7  丁沢は商業手形を振出すときは手形金額の記載にチェックライターを常用していた。ところが不思議なことに、本件手形を初め前示4で丁沢が振出し裏書を受けた手形の金額はすべて手書であった。

8  丁沢は被控訴人らから裏書を受けた後夜逃げをして行方不明となっている。

二  証言、供述の検討

1  丁沢に頼まれてその窮地を救うため見かけ上五〇〇万円と記載のある手形の裏書であると考えて裏書をした旨の被控訴人両名の供述(原審及び当審)は、これと同じ様な状況で自分らも裏書を頼まれたという当審で取調べた他の証人(己原F平、庚崎G吉、辛田H夫、壬岡I雄)の証言などともよく符号し、内容も自然で証人らの資質、証言態度などに照らし十分これを信用することができる。全員が偽証しているとはとても思えない。これによると、見かけ上本件各手形の金額は被控訴人らの裏書当時「五百萬円」と記載されていた。しかも、金額欄の「五百萬円也」の前部に十分な空欄をおいて右寄りにずれた異常なものではなかった。それ故、後にその空欄に文字を挿入して「一金弐阡五百萬円也」とか、「一金五阡五百萬円也」と変造する余地もないものであった。

2  しかし、他方、現に存在する本件手形(甲、乙事件の各≪証拠省略≫)には前示のとおり「一金弐阡五百萬円也」、「一金五阡五百萬円也」と鮮明に記載されており、しかも変造された痕跡は全くない。

そうすると、特段の事情がない限り、裏書当初に「五百萬円也」とあったものが、後に「金弐阡五百萬円也」や「金五阡五百萬円也」になったものとは思えない。すなわち、特段の事情がない限り書証である手形に記載どおり当初からその記載があったものと認めるほかない。

3  この1と2の矛盾をどう考えるべきか。この2により1の証言をすべて虚言であると断定するのは安易にすぎ疑問である。そこで、この1、2を矛盾なく両立させる特段の事情(仮説)がないかを考える必要がある。

このような特段の事情を認定することなく、原判決のように「いかなる事情で現在の手形金額になったのかは容易に説明のつかないまことに不自然、不可解なことであるが、人証を虚偽として排斥できない」として、書証としての手形の記載をたやすく否定するのは相当でない。

4  そこで、本件手形一、二及び前示1挙示の各供述、証言、当裁判所に顕著な事実、弁論の全趣旨により、この点をさらに検討する。

(一) 本件福邦銀行の手形用紙をよく見ると、これは、証券用の腰の強い上質紙で、金額欄を除いて全体に薄緑色の縦縞に斜線の地模様が施されている。しかし、金額欄のみは薄青色の細かい横線模様が施されている。金額欄の幅は一二ミリ、長さは一〇〇ミリである。金額欄の上端に接して太い黒線が引かれ、金額欄の下端にもほぼこれに接して細かい活字で約束手形の支払文言が黒く印刷されている。

(二) 住友スリーエム株式会社から「はってはがせるテープ」の商品名で、特殊なアクリル樹脂系粘着剤を使用した透明なアセテートフイルム製のテープが一般に市販されている。該商品は、「貼るとテープが見えなくなる」とうたった上で、商品の特長として、貼ったものを傷めずにはがせノリも残りません、テープの上から文字が書けます、貼るとテープはほとんど見えなくなりますなどと記載している。テープの幅は本件手形用紙の金額欄の幅と同じ一二ミリである。

右のテープを長さ一〇〇ミリに切って前示の手形用紙の金額欄全体に位置を合わせて貼ると、テープの端が地模様部分と金額欄の色の境と重なり全く目立たなくなる。その上、金額欄の横模様、上下の太い黒線や黒い文字列の印象の強さ、手形用紙の厚さや弾力性などの要素も加わって、テープを貼ってあることが見えなくなってしまう。よほど注意深く目を近づけて見るか、表面を指で撫でて感触を確かめるかしなければ、これを見破るのはかなり困難である。そして、このテープの表面には、ボールペンなどで字が書け、それが手形用紙そのものに書いてあるように見える(ちなみに、当裁判所は、金額欄の記載内容や文字の位置を証人らに確かめる際に、右テープを金額欄に貼りその上から「金五百萬円」と書いた福邦銀行の手形用紙を用意し、これを示して尋問したが、証人らはだれもテープが貼ってあることに全く気がつかなかった)。ところが、このテープを剥がすと、ノリ残りもなく、全くなにも書かれていない金額欄が出てくるから、新たに別の金額を書込むことができるのである(ただし、テープの表面に記載するときにチェックライターを使用すると、当然その跡が残ってしまい具合が悪い)。

なお、右テープ以外にも、貼ると目立たなくなり上から字が書けて、後で剥がせるテープが、メンディンングテープ等の商品名でも普通に市販されている。

(三) このような特殊なテープを使用することにより、前示1(供述、証言と2(手形の記載)が矛盾なく両立し得ることが明らかとなる。

そして、この方法を用いたとすれば、本件手形金額が常用していたチェックライターを使わず、手書していること、本件手形に変造の痕跡が全くないこと、手形金額の記載に前後不自然なところがないこととよく符号する。

(四) このような容易に手に入る市販のテープを使用することは簡単にできるものである。しかも、そのような細工は、特殊な方法のようにも思われるかも知れないが、市販されている前示のテープのうたい文句などからこれを着想することがそれほど困難であるとはいえない。奸智に長けた一部の悪徳業者にはたやすく考え出せるもので、その間では、或いはよく知られた方法であるのかもしれないのである。

5  証人戊野E作(原審及び当審)は、こう証言する。自分が本件手形一、二を見たときには、金額欄には「一金貳阡五百萬円也」及び「一金五阡五百萬円也」と記載されていた。控訴人から合計七〇〇〇万円を送ってもらい、丁沢から本件手形を割引いた、と。

しかし、右証言は、被控訴人両名が本件手形に裏書した当時には金額欄が五〇〇万円となっていたことと直接矛盾するものではない。証人戊野としては、本件手形の変造に自分や控訴人は関与していないというのであろうが、それを裏付けるものはない。かえって、右証言には、金銭に困っていた丁沢に七〇〇〇万円もの現金を物的な担保もなしに交付したということや、被控訴人両名、丑木K介、壬岡I雄裏書の手形を合わせると額面合計一億六〇〇〇万円の四通の同種手形が、いずれも戊野兄弟の手を経ていること、裏書の確認を全くしていないこと、前示の不審な振込手続や七〇〇〇万円の送金を受けたといいながら返済もしていないという戊野E作と控訴人との関係など、不自然で疑問となる点が多い。

したがって、右証言は、到底前示認定、判断を左右するものではない。

6  そうすると、前示1の人証(供述、証言)をはじめとする前示一、二の認定判断に照らし、甲、乙事件の各≪証拠省略≫(本件手形)の各金額の記載は裏書当時から記載されていたものとは認められず、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。

三  まとめ

以上の認定、判断を総合すると、次のとおり認めることができる。

1  本件手形一、二には被控訴人両名が裏書した当時、金額欄に見かけ上手書で五〇〇万円と書かれていた。しかし、その当時実際には金額欄に五〇〇万円と記載されていたとはいえない。

2  被控訴人両名は丁沢に頼まれて、金額五〇〇万円の手形に裏書するつもりで、それぞれ本件手形一、二に裏書した。

3  その後、何者かが本件各手形の金額欄に、手書で「一金貳阡五百萬円也」あるいは「一金五阡五百萬円也」と書入れ、欄外に複記をするなどして本件各手形を作成した。

第三控訴人の請求の検討

一  主位的請求(本件各手形に記載のある手形金額による手形金請求)について

本件各手形記載の金額は、被控訴人らが裏書した当時記載されていたものとは認められないから、この手形金額について被控訴人らが裏書人として責任を負ういわれはない。

したがって、控訴人の右手形金額による主位的請求は理由がない。

二  当審予備的請求(変造前の手形金額による予備的請求)について

1  前示認定のとおり、被控訴人両名が裏書した当時、本件各手形は見かけ上、金額五〇〇万円の手形であった。

しかし、これが前示第二の二4のテープを用いてテープ上に記載されていたものとすれば、右金額は、本件各手形証券上に記載されていたものとはいえない。本件各手形証券の金額欄は、後に別の金額を記入するために空白のままであった。そして、五〇〇万円の金額を装う目的で、金額欄には、貼ると見えなくなり、後で容易に剥がすことができる特殊なテープ等が貼られ、その上に「金五百萬円」と記載されていた。右のテープ等は後で剥がすことを意図として貼付されていたもので、かつ容易に剥がせるものであり、手形証券と不可分に結合されていたものではない。したがって、右テープ等は主観的にも客観的にも手形とは別の紙片である。これは、手形と結合し裏書などのみが認められ、金額の記載は許されない補箋(手形法一三条一項)にも当らない。そして、実際に、被控訴人両名が裏書した後で、何者かが右のテープ等を剥がして捨て、何も書かれていない本件各手形の金額欄に、金弐阡五百萬円及び五阡五百萬円と記載したものといえる。

そうすると、被控訴人両名が裏書した段階では、本件各手形は、手形券面上に手形要件である金額の記載がなされておらず、未完成な手形であったというべきである。テープ上には五〇〇万円と記載されていたが、被控訴人両名の目を欺くためだけに一時貼付されていたにすぎず、これをもって手形券面上の手形金額の記載ということはできない。したがって、このような工作が手形法六九条所定の手形の変造ともいえず、右テープに記載された五〇〇万円を本件手形証券自体の変造前の原文言(手形法七七条、六九条)であるとすることもできない。

2  ところで、右テープの利用による工作は一つの有力な仮説ではあるが、これを裏付けるに足る的確な証拠があるわけではないから、他に可能な仮説がないことが論証されない限り、本件証拠上、いまだこれを民訴法上真実として認定するには足りない。

しかし、本件訴訟では、他の可能な仮説については何ら主張も立証もなされていない。また、本件手形のように券面に全く痕跡を残さず五百万円と記載のある金額を後に「弐阡五百萬円也」とか「五阡五百萬円也」と書替える簡便な方法は、前示変造の痕跡を残さない本件手形の状態などに照らして考え難い。

また、そもそも約束手形の金額の変造前の文言の記載については手形所持人において主張、立証したうえ、これにしたがって手形上の請求をするほかないのであり、もしこれを証明できないときは、その不利益は手形所持人が負う(最判昭和四二・三・一四民集二一巻二号三四九頁参照)。

そして、被控訴人らは当初変造前の文言として「五〇〇万円」の記載があったことを認めたが、その後、この(先行)自白を撤回し、控訴人においてこれに異議がないから、右の点の立証責任が手形所持人である控訴人にあることに変りはない。

ところが、前示認定のように本件各手形の金額欄には「一金貳阡五百萬円也」及び「一金五阡五百萬円也」とあって変造の形跡はなく、前示のように、これを当初「五百萬円也」のみが記載されていてその左側に「貳阡」なり「五阡」と挿入する空白部分があったものとはいえない。そのうえ、前示のような有力な仮説が成立つ余地がある以上、本件手形の変造前である被控訴人らの裏書当時に、手形券面上に金五〇〇万円の記載があったことを認めることができない。

3  したがって、手形金額の記載のない未完成な手形に裏書したとしても、被控訴人両名が裏書人として手形法上の責任を負ういわれはないから、控訴人の「本件各手形の原文言」を根拠とする請求も理由がない。

なお、控訴人も特に主張しないが、本件各手形が金額白地の白地手形であったともいえない。金額欄のうえに前示テープを貼付した手形は白地手形とはいえないし、振出人である丁沢が誰かに白地補充権を付与して本件各手形を振出したとの証拠もない。また、仮に白地補充権が認められるとしても裏書人である控訴人らが、白地手形として本件手形に裏書したとの証拠もない。

したがって、控訴人の手形変造前の「原文言」を根拠とする請求も理由がない。

第四結論

以上の次第で、控訴人の被控訴人両名に対する各手形金請求は、主位的請求も当審予備的新請求も共にいずれも理由がない。

したがって、右各手形金請求(主位的請求)を棄却した手形判決を認可した原判決(甲事件、乙事件)はいずれも結論において相当であり、これらに対する本件控訴はいずれも理由がない。

よって、本件控訴をいずれも棄却し、当審予備的新請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 小田耕治 紙浦健二)

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